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日本にきて今だに驚くことは、飲食店の数です。多いですな。日本人は食べることを大変大事にしていますので、庶民のエンターテイメントである落語には「食」というテーマはよく出てくることは当たり前のことだと言えるでしょう。
海外口演の時には「日本ではよく食べるから、落語の演目にもよく食べますよ」とのマクラもよくします。
日本の文化を知った上で聴く落語と日本のことを全くわからない上で聴く落語の楽しみ方は違いますが、落語は海外に日本の文化を伝える便利なツールだと思います。
たとえば、「時そば」(上方では「時うどん」)は、日本に「すする」文化があると教えてくれるネタです。落語を聞いてそれを知った外国人には日本にきた時に、驚きません。落語は役に立ちますな。
また、フグが食べたいけど、怖いという二人の主人公が安全確認のため、第三者に食べさせることにする「河豚鍋」。フグという魚が美味しいですが、危険だと教えてくれることです。
まあ、落語を聴かなくてもネット時代になった今、それから数年前から海外では和食ブームもあることで、「すする」や「フグが危ない」ということぐらいは周知のことでしょうが、もうちょっと江戸の味に関して詳しい情報を伝えてくれる演目もいくつかあります。
知ったかぶりの男に腐った豆腐を食べさせる旦那でお馴染みな「ちりとてちん」(江戸では「酢豆腐」)。夏の噺です。江戸時代には当然、冷蔵庫がないため、豆腐の賞味期限が今より早く切れるとのことなど教えてくれることになります。
貧乏長屋の住人が集まって、貧乏神を追い払うために花見に繰り出そうとする「長屋の花見」(上方では「貧乏花見」)では、「沢庵」や「大根」が登場。
日本料理の代表的な材料である「味噌」も「味噌豆」や「味噌蔵」に出てきます。演目のタイトルに表示される「味噌」、江戸っ子にはそれほどの大事な食材と言えるでしょう。
日本と比べたら海外では数少ない魚の種類も落語のおかげで勉強になることがある一方、江戸の庶民にとっては「魚」が高級食品だとも教えてくれる演目もあります。
ニシン、スケソウダラ、目刺し、かまぼこなどが登場する「権助魚」または「目黒のサンマ」、「さくら鯛」、「青葉」、「芝浜」etc。
食事の最後は甘いタッチが欲しくなるフランス人のわたくしには正直、和菓子は甘さがパンチ足りないなと思います。ただ、「饅頭怖い」を聞くと、熱いお茶も飲みたくなりますな。
上記の「メニュー」を見ると、江戸っ子の食生活はヘルシーだと感じませんか?
ちなみに、江戸の食文化に限りませんが、今回の「散策」は「落語歳時記 らくごよみ」(三遊亭竜楽著/朝日文庫/2013年)の一冊に基づきました。おすすめします。